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地下鉄「麻布十番」駅の開業によって利便性が高まり、一躍注目を浴びることとなった麻布十番。駅周辺の幹線道路沿いにはオフィスビルや商業ビルが建ち並んでいます。しかし、六本木ヒルズに歩いて行けるような都心にありながら、一歩中に入ると、緑の残る高級住宅地が広がり、街の喧噪を離れた生活を楽しめます。
麻布狸穴町もそんなエリアの一つ。江戸初期に生まれた「狸穴(まみあな)」の町名が街の歴史を感じさせるこの地は、ロシア大使館や参議院副議長公邸が周辺に点在し、昔ながらの閑静な佇まいを残しています。2008年2月に竣工した「ウェリス麻布狸穴」は、この「街並みの継承」を基本に、敷地内の緑の保持と周辺環境への配慮も充実させて、「街」と「自然」が共生する住まいづくりを実現しました。
そこで今回は、「ウェリス麻布狸穴」が、いかにして「街並みの承継」を果たしたのかを、この物件の企画からたずさわったNTT都市開発(株)住宅事業部の大野綱良がナビゲーターとして、ご紹介いたします。

住宅事業部
大野 綱良氏

「街並みの継承」に加え、本物志向を徹底させたと話す大野氏
「ウェリス麻布狸穴」は、地下鉄(都営大江戸線・東京メトロ南北線)「麻布十番」駅から、ロシア大使館方面に5分ほど歩いたところに位置しています。以前は、NTT東日本の社宅として利用されていました。
この地でマンション建設を行うにあたって、考慮したのは以下の点でした。
- 麻布十番駅から徒歩5分という利便性のある立地であるにもかかわらず、高い建物のない閑静な住宅エリアに立地
- 敷地の南西側は木々に囲まれた狸穴公園に隣接し、西側と北側は緑に覆われた崖地になっており、都心にしては緑が濃い希少性のある土地
ただし、道路幅員が4mのため、東京都安全条例による規制により、駐車場面積が300m2以下(全戸の約1/3)しか確保できないという制約がありました。しかし、規制があることによって、将来にわたって前面道路はほとんど車が行き交うことがない状態が続くことが見込まれ、住宅地としては最適な立地といえました。
もともと麻布狸穴周辺は、大谷石の擁壁を持つ家がそこここに建ち並ぶエリアで、NTTの社宅が建っていたときも、前面は大谷石の擁壁でした。そういった街の歴史も検討した結果、「街並みの継承」を大前提に、プランを練り上げていくことにしたのです。
「ウェリス麻布狸穴」の開発当時、六本木ヒルズや東京ミッドタウン、湾岸エリアの再開発などが話題で、超高層マンション全盛期でした。しかし、超高層マンションに住むよりも、ひっそりと落ち着いた場所に暮らしながらも、都心生活を満喫したいというニーズを持つ層が存在することが、マーケティング調査の結果わかったのです。そこで、「街並みの継承」「本物志向」「永住」をコンセプトにしました。

緑に囲まれた物件
また、建設工事着手前の近隣説明会に参加された方から「この地に合った建物をつくってもらいたい」「夜、前面道路が暗いので明るくしてほしい」というご要望をいただいていました。そこで、そうした近隣の方々のご意見も十分尊重したうえで、「ウェリス麻布狸穴」では、地域との調和という観点からも、さまざまな工夫を凝らしています。

柔らかい光でライトアップされた建物
まず、「街並みの継承」ということで、当初は擁壁に大谷石の採用を検討しました。しかし、大谷石は劣化しやすいため、永住の住まいにはそぐわない。そこで、近くにある参議院副議長公邸の石積み擁壁に着想を得て、「ウェリス麻布狸穴」も石積み擁壁にしたのです。たまたま、隣接する狸穴公園の擁壁補修が行われて「ウェリス麻布狸穴」の石積みに似たものになったことで、街並みに一連の流れが生まれるという効果もありました。
また、近隣の方々からの明るい街並みにしてほしいという要望を実現しながらも、街並みとの調和と建物の品位を壊さない照明が課題でした。「ウェリス麻布狸穴」には、西側と北側からの土の圧力と流入を防ぐ目的と、災害時の避難通路を確保するために、建物周囲に2m幅の通路がめぐらせてあります。その擁壁に少し照度の高いフットライトを設置することで、建物を足下から柔らかい光でライトアップされた城のように見せつつ、街にも明るさをもたらすようにしました。
さらに、街路灯として近代的な照明を主張させるのではなく、道路に面する擁壁の石を一部くりぬき、設置した照明の光源を見せぬよう上下左右のスリットより、何気なく間接光が道路に漏れるようにしました。この工夫により、近隣の方々の要望に応えつつ、建物の品格を保ちました。入居者はもとより、近隣の方々からも喜ばれる結果となりました。
建物の外観も、周辺にある木々の緑になじむ色合いにし、年月を重ねるうちに独特の風合いが生まれてくるように、外壁に使用するタイルを瀬戸の窯元に依頼して、一つひとつ焼いてもらいました。一定の品質をクリアしながらも、一つとして同じものはありません。
しかも、通常であれば磁器質のタイルを使うところをせっ器質のものにしました。せっ器質のタイルは水をある程度吸収するため、粘土の水分量や焼き方を調整し、磁器質に近い吸水率に抑えています。さらに、土壁のように見せるため、タイル一つひとつの表面に傷をつけ、目地を埋める時に目地材は表面に残るように工夫しました。
このように、使用する材料すべてに本物志向を徹底したのも、「ウェリス麻布狸穴」の特長です。本物は長く使うことができる飽きがこないシンプルで洗練されたデザインとなる利点とともに、長く使うことができるということはサステナブル(持続可能)社会にも貢献できているのではないかと思っています。

街並みに一連の流れを生んだ石積み擁壁。用壁にあるスリットが組み込まれた照明部分

背後にある木々の緑になじむ色合いになるように瀬戸の窯元に依頼して一つひとつ焼いてもらったタイル
「ウェリス麻布狸穴」の居住者に対しても、「ゆとり」と「潤い」をもたらす自然を提供することは、大きなテーマでした。もともと、敷地内から裏山にかけては、都心では貴重な緑が残っていました。プランを練る段階で、裏山を崩して人工の庭を造るという選択肢も検討されましたが、「街」と「自然」のハーモニーと、「街並みの継承」という原点に立ち返り、人工的に作ったものではないボリューム感のある木々を残し、隣接する狸穴公園との一体感を醸成していくことを決定しました。
そこで、公園から建物の裏山にかけて連続性を維持するように笹を配置。北から西にかけては基本的に既存樹木をそのまま残しつつ、四季の変化を感じられる庭にするということで、ヤマモミジを新たに植えました。ヤマモミジが育つまでは、土の流出を防ぐため芝を吹き付けたむしろを敷き、成長の早いハギで覆うことで、美観を損ねないようにしています。
実は、開発にあたっての一つの懸案事項が、北側の擁壁の強度でした。長い年月が経ち老朽化が激しいうえに、いろいろな材質が使われていました。本工事の影響で土砂崩壊が起きては大変なので、あらかじめ耐震診断をしました。その結果、一部に「危険である」ということがわかり、総合的に考えた結果、工事着手に際し当社で補強を行うことにしたのです。この事も地域貢献のひとつではないかと考えています。
また、東京都の街づくり条例によって建設地は雨水抑制地域に指定されていたため、大雨時などに一時的に雨水の流出をコントロールする貯留槽を設置する必要がありました。行政指導では1時間50mmの雨量に耐えられるものでいいのですが、100mm以上耐えられるようにしています。裏山からの水もありますし、狸穴公園が避難場所に指定されているので、社会的責任として、近隣より早く「ウェリス麻布狸穴」から水を出さないようにと考えたのです。
ほかにも、隣接したマンションの住民の方々の景観を考えて、屋上防水材の色を特注し、周辺の緑に合うようなモスグリーンにしています。
設備に関しては、快適性と環境保全に配慮しています。例えば、複層ガラス窓によって断熱性を高めるとともに、高効率ガス給湯設備を導入して、エネルギー消費の節約と効率向上を実現しています。また、駐車場の消火設備にはCO2を排出しない窒素ガス消火を採用したほか、外壁の吹きつけ材も代替フロンではなく、ノンフロンのものにして、フロンガスの排出を抑えています。
さらに、段差のないバリアフリーや、トイレや浴槽、ドアにはユニバーサルデザインを採用。ホルムアルデヒド対策など、ウェリスブランドで標準となっている高仕様のものを採用しています。さらに、二重床・二重天井によって、リフォームやメンテナンスを容易にし、長く住める住戸を実現しています。
「ウェリス麻布狸穴」の竣工後、近隣の方々から「いいものをつくってくれて、ありがとう」というお礼の言葉をいただきました。そういう意味で、当初の目標だった「街並みの継承」という目標が守れたと思います。それは、私たちが常に「人」と「街」、「街」と「自然」が調和する街づくりを意識しているからだと思います。

既存樹木をそのまま残し、四季の変化を感じられる裏山

裏山(通称:もみじ山)から建物を臨む。

地域の環境を考え行政指導の倍の雨量まで対応できる貯留層

隣接したマンションや周辺の緑に配慮したモスグリーンの屋根
