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人・街・時をつなぐ
新たなビジネスセンター
「大手町プレイス」

大手町プレイスエントランスの写真
大手町プレイスエントランス

公共性の高い街としてユニークな歴史を持つ大手町二丁目地区。ここに「人・街・時をつなぐ」をコンセプトとして2018年9月にオープンしたのが、大手町最大規模の新たなビジネスセンター「大手町プレイス」(東京都千代田区)です。その実現において中心的な役割を担った2人の担当者が、この場所の意味、開発の構想と具体的な取り組み、そして今後の課題・展望を語ります。

開発本部 開発推進部 担当部長 東田中 成佳 の写真
NTT都市開発
開発本部
開発推進部 担当部長
東田中 成佳
都市建築デザイン部建築・エンジニアリング担当 主査 吉川 圭司 の写真
NTT都市開発
都市建築デザイン部
建築・エンジニアリング担当 主査
吉川 圭司

大手町二丁目にビルを建てることの意味

東田中

大手町プレイスが立地する大手町二丁目エリアには、かつて越前福井藩(松平家)が江戸上屋敷を構えていました。明治時代には官庁街として発展し、赤レンガの大蔵省印刷局はそのシンボルになりました。そして昭和期に入ると、東京郵政局、東京国際郵便局、逓信総合博物館(ていぱーく)といった逓信建築を代表するビルが建ち並びました。

歴史的に見て非常に公共性の高いエリアであり、財務省、逓信省の流れを汲む日本郵政グループ・NTTグループといった地権者が名を連ねます。この地に建てるビルは、「大手町という場所にふさわしい、そして日本のこれからにつながるものであるべき」という思いが、私たちのなかに強くありました。

  • 逓信(ていしん)建築:戦前の逓信省に所属する技師集団らによって設計された建築物ないしその建築様式のこと。「合理主義の建築」を掲げ、堅実で高品質の建物を数多く生み出した。個性溢れる建築家を多く擁したことでも知られる。

"つなぐ"ことで生まれるパブリックな空間

東田中

この場所の記憶を考慮して、「公益性のあるパブリックな空間をつくろう」という思いが私たちの出発点であり、一貫した指針になりました。そのなかから生まれたのが「人・街・時をつなぐ」というコンセプトです。共通の要素である"つなぐ"は、歴史的な地権者が扱うもの、つまり日本郵政の「手紙」やNTTの「電話」に因むものです。

大手町プレイス外観の写真
大手町プレイス 外観

吉川

「人をつなぐ」は、「人が交流できる場所を提供する」ことを意味しています。このビルを訪れた人同士がつながり、そこから新たな活気が生み出されることを願い、設計に取り組みました。オフィスロビーを3階に置き、1・2階をセントラルプロムナードとして開放したことが最大の特徴です。低層部には来街者が自由に利用できるさまざまなタッチダウンスペースや緑豊かなサンクンガーデンを設けました。特に、オープンエアのサンクンガーデンは、通りがかった人々が休憩で利用したり、コーヒーブレイクしたりと、大手町プレイスのオフィスワーカーだけでなく、近隣のビルに勤める多くのオフィスワーカーの憩いの場となっています。「常に外に向けてオープンに開かれた場所をつくりたい」という私たちの思いを象徴する空間となりました。

サンクンガーデンの写真
サンクンガーデン

東田中

「街をつなぐ」取り組みとしては、大手町と隣接する神田・日本橋との行き来を促す歩行者専用橋「竜閑(りゅうかん)さくら橋」を日本橋川に架け、エリア外からも訪れやすくする導線をつくりました。訪れる方々は、大手町プレイスのセントラルプロムナードを経て、大手町交差点へと抜けていくことができます。大手町プレイスというビルを結節点として新たな歩行者ネットワークを生み出し、回遊性を高めながら周辺を含む地域の活性化にもつなげていきたいと思います。

セントラルプロムナードの写真
セントラルプロムナード

吉川

大手町・丸の内、日本橋、神田の各エリアに向け、西、東、北のコーナーにゲートプラザと呼ぶ街からの玄関になるような導入空間を設けました。これらをセントラルプロムナードで結び、それぞれのエリアへと訪問者を誘っています。

東田中

そして「時をつなぐ」ですが、これは歴史を継承するという意味合いで、いろいろな形で表現しています。例えば、大手町プレイスのデザインの象徴でもある「大庇」は、逓信博物館時代の様式を受け継いでいます。上段の庇を大手町の街並みに共通する高さ20mラインに配置しつつ、先端には時間が経つと風合いが増すテラコッタタイルを用いるなど、今日の素材も活用しながら逓信建築の妙味をしっかりと再現できたと自負しています。

吉川

逓信建築の特徴である真壁造りの様式も、アルミ製の円柱とガラスのカーテンウォールで現代風に表現しているほか、セントラルプロムナードやエレベーターホールには逓信建築に見られた"手仕事感"を感じさせるため、和紙や漆塗りといった意匠の要素を取り入れています。パネルの目地なども非常に高い精度で美しく揃えており、ここにも逓信建築ならではのきめの細かい造りが継承されています。

訪れるさまざまな方々が利用しやすい空間に

東田中

大手町プレイスの設計では、ユニバサールデザインも重視しました。NTTグループの特例子会社であるNTTクラルティ(株)の協力も得て、障がいのある訪問者の方々の目線でさまざまな配慮をすることに努めました。セントラルプロムナードの中央エリアのトイレには多目的シートを設置し、地下1階には授乳室を整備。また、タッチダウンスペースには、休憩、テレワーク、打ち合わせといった異なる目的で使われることも想定し、ソファ、チェア、スツールチェアなど多彩な椅子を配置しています。案内表示も、誰にとってもわかりやすいものにすることを意識して製作しました。

タッチダウンスペースの写真
タッチダウンスペース

吉川

トイレには、聴覚障がいのある方のご利用を想定し、災害など緊急時に音声案内に加えてフラッシュライトで危険をお知らせするような仕組みなども導入しています。

より快適で安心なビルとするために

東田中

NTTグループの一員として、ICT(情報通信技術)の活用にもこだわりました。大手町プレイスの低層階に設けた無料のワークスペースにはセンサーを設置し、テナントのオフィスワーカーが利用したいと思った時には、スマートフォンやPCで混雑状況を確認できるようにしました。よく利用されており、自社のオフィスを出てビル共用部のワークスペースで仕事をしようとする人の多さに、時代の流れを感じています。また、全フロアのトイレの使用状況を手元の端末で見ることができるシステムも導入しました。

吉川

ビルの床面積が広くなればなるほど、そこで働くオフィスワーカーにとって自分の席からトイレまでの距離は長くなりがちで、わざわざ行って確認するのは骨が折れます。手元でいつでも確認ができれば、より効率的で快適にトイレをご利用いただくことができ、それがビルの新たな価値にもなります。こうしたやり方は、今後スタンダードになっていくと思います。

東田中

ICTの活用には、利便性や快適性を向上させるだけでなく、利用者に何かがあった際に警備員が迅速に駆けつけられるようにするなど、安全面でも大きなメリットがあります。

また、BCP(事業継続計画)対策にも力を入れています。非常用発電機やガスコージェネレーションシステムといった自立性の高い電源を設置しているほか、大きな地震など災害時には、低層部のパブリックスペースの一部を一時滞在施設として開放し、帰宅困難者の受け入れを行えるようにしています。その他、災害時の飲料水、雑用水・冷却水の確保といった給排水機能の維持や、通信・情報機能の確保などの機能も備え、事業継続能力を確保しています。

アートによって新しい価値をもたらす

NTT都市開発は、大手町プレイスの地下2階に、東京藝術大学とのコラボレーションによるアート体感スペース「ART Lab powered by GEIDAI COI」を設置しました。ここでは、東京藝術大学とのコラボにより「アート×ICT」を体験できるスペースを期間限定で設け、オフィスワーカーをはじめとした来訪者の方々の創造力や構想力を刺激し、「知性と感性」を養う機会を提供しています。展示テーマは3カ月単位で変わり、第一弾が「バベルの塔」をテーマとした「バベルの謎 ーアートとデータサイエンスの創造ー」、第二弾が日本舞踏をテーマとした「クリエイティヴ・レガシー ー創造する伝統ー」といった企画を催し、いずれも大きな反響を呼んでいます。

また、サンクンガーデンではイベントなども積極的に催し、地域の人々に新たな刺激を提供するよう努めています。その一つが音楽です。大手町には、文化的な要素が弱いことから、大手町プレイスを通じて新たな文化を発信したいという思いから、"音楽と食を融合させた大人の遊び場"をテーマとし、(株)ブルーノート・ジャパンが運営する「Lady Blue」を誘致し、オープニングイベントとしてジャズイベントを催しました。

ART Lab powered by GEIDAI COI の写真
ART Lab powered by GEIDAI COIの内装

ART Lab powered by GEIDAI COI

将来の大手町の姿を思い描く

東田中

大手町はビジネス街であるだけに、どうしても訪問者は平日が中心になり、週末は人出が見込みにくいのが実情です。ある種の宿命として受け入れざるを得ない気持ちもある一方、大手町プレイスを通じて、大手町のあり方を変えていきたい思いも強くあります。「竜閑さくら橋」を通じて神田・日本橋と大手町を結ぶ導線が整ったので、これを利用し、新しく人の流れを生み出すような新たな価値創出を進めていきたいと考えています。そのためには、私たちだけでなく、大手町や丸の内を含め、広域的なスケールで新たな人の流れを生み出すしくみや文化を創っていかなければなりません。それによって、大手町が土日・休日も人で賑わう街になってくれれば嬉しいですね。

竜閑さくら橋の写真
竜閑さくら橋

吉川

現状、このビルがどう使われているのかを徹底的に把握の上、分析を行い、それを元に改善を続けていくという「次に活かす開発」を継続的に続けていくことが大切だと思っています。そこで重要となるのが先にも述べたICTです。それらを活用し、サンプリングされたさまざまなデータを指標・可視化し、次なる検討につなげていきたいと思っています。

東田中

3つの「つなぐ」というコンセプトを高いレベルで具現化できたのは、地権者やパートナーである事業者に恵まれた点も大きいと思っています。このコンセプトはこれからも変わることはありませんし、大手町プレイスを核とした街づくりはこれからも続きます。この成功を一つの糧に、NTTグループとして街づくりを通じた地域や社会貢献を強く意識しながら、大手町プレイスそして大手町がより魅力的なものとなるよう尽力していきたいですね。

大手町プレイスロゴ