文字サイズ

街が育み続けた歴史と文化を未来につなぐ
「新風館再開発計画」

1926年、京都・烏丸通東側に京都中央電話局として竣工し、2001年からは商業施設「新風館」として親しまれてきた建物が、2020年にホテルと商業の複合施設へと生まれ変わります。歴史ある建築を継承しながら、街へ開かれた、さまざまな魅力を備える空間を生み出すことで、地域の方々に、そして世界中から集まる旅行者にも愛される施設をめざします。その背景と構想について、担当者がご説明します。

小林裕之の写真
商業事業本部
商業・ホテル開発部 担当課長
小林 裕之
小池正也の写真
都市建築デザイン部
建築・エンジニアリング担当
小池 正也

──「新風館」再開発に至るまでの経緯を教えてください。

──「新風館」再開発に至るまでの経緯を教えてください。

小林

再開発する建物は、1926年に京都中央電話局として竣工したものです。1985年に電電公社が民営化され、翌1986年にNTT都市開発が設立しましたが、その際にNTTから各地の土地・建物を譲り受け、旧京都中央電話局もその一つでした。当社はこれをリニューアルし、2001年に商業施設「新風館」を開業しました。歴史ある旧京都中央電話局の建物を残しつつ、新たに大きな中庭を設け、誰でも気軽に出入りできる地域に開かれた施設としました。本再開発の前にリニューアルを行ったのは、"種まき"としてのねらいがありました。もともと烏丸通・三条通界隈は官公庁を中心としたオフィス街で、大きな商業施設は成立しにくいエリアでした。そこで、街に新たな賑わいを生む"真珠の核"としてリニューアルした新風館を運営し、土壌が整うのを待って本格的に再開発する、という段階を踏むことにしたのです。

私たちが思い描いた通り、新風館の開業以降、周辺には商業施設が増え、特に街区南側を走る三条通などはぐっと賑わいが増しました。当初の想定よりは少し延びましたが、リニューアルの役割は十分に果たしたと判断し、2016年に再開発に踏み切りました。新風館を閉館した際は、SNSなどで閉館を惜しむ声を多くいただき、新風館が街にしっかりと根付いていたことを実感しました。

本再開発の前にリニューアルされた旧新風館の写真
本再開発の前にリニューアルされた旧新風館
本再開発の前にリニューアルされた旧新風館

──再開発にあたって大切にしていることは何ですか?

──再開発にあたって大切にしていることは何ですか?

小池

90年以上の歴史を持つ建物と、街に開かれた施設というコンセプトを受け継ぐことを強く意識しました。土地・建物は当社の所有でも、その景観はもう街の一部になっており"みんなのもの"です。また、京都市から登録文化財(第一号)の指定を受けた建物でもありますので、この財産を残していくことが街の魅力を高めることにつながると考えました。博物館のように建物をそのまま保存するのではなく、時代に合うように一部改築したり新棟と組み合わせたりしながら、建物が商業施設の魅力の一端を担うという"生きた"形で次の世代に伝えることを意識しています。旧館は烏丸通りに面し、北側姉小路入口上部の出窓やアーチ形の窓など、逓信建築の特徴の一端が見てとれます。旧逓信省の技師だった吉田鉄郎さんの設計です。中央郵便局などを設計した吉田さんや、京都タワーや日本武道館などを設計した山田守さんらは、NTT都市開発で建築・設計に携わる者にとって大先輩でもあり、私たちも敬意を表しながら仕事をしています。

  • 逓信建築は高い信頼性が求められる通信建築を舞台に、堅実で質の高い標準設計手法で生み出された建築物のこと。

リニューアルの際には、タイルなど部分的に新しくした箇所があったのですが、今回の再開発ではその部分も張り替え、外観をなるべく電話局時代に近付けることにしました。例えば、1920年代にはガラスが高価だったので、竣工当時の建物では、窓は鉄製のサッシに小割のガラスがはめ込まれていました。リニューアルでは一枚ガラスの窓に変えましたが、今回はオリジナルの窓割りを再現します。ただし、先端の技術や材料を用いて、断熱や耐震その他の性能は大幅に向上させます。

京都中央電話局の写真
京都中央電話局

──逓信建築にはどのような特徴がありますか? また、今回の再開発でそれはどのような効果を生むのでしょうか。

──逓信建築にはどのような特徴がありますか? また、今回の再開発でそれはどのような効果を生むのでしょうか。

小池

逓信建築は、ひと言でいえば堅牢かつ緻密です。電話局は機械も人も多く入る特殊な施設なので、耐荷重や柱間距離、天井高、空調などのスペックが、当時としては異例の高さになっています。また、計算し尽くされたタイルの割り付けも特徴的です。

小林

今回の再開発で旧館の2階と3階はホテルになりますが、5mの階高や既存の出窓などを活かしたバラエティ豊かな客室を20~30室配置する予定です。建物の特徴を活かした個性的な客室は、ホテルの魅力になるはずです。

──「街に開かれた施設」というコンセプトについても聞かせてください。

──「街に開かれた施設」というコンセプトについても聞かせてください。

小池

電話局時代、中庭は職員が朝礼や体操を行っていて、建物も中庭も職員のためのプライベートな空間でした。リニューアルでは、中庭を街へ開くことで、多くの方々が集える空間をつくり、賑わいを生み出すことをめざしました。そして、街の喧騒から区切られたオリジナルの空間に入り込む体験をしていただけるようにしました。今回の再開発でも、街へ開くというコンセプトに沿って、東西方向および南北方向の貫通通路(パサージュ)を設けるとともに、地下鉄の烏丸御池駅にも直結し、周辺の回遊性を高めています。新風館時代には知る人ぞ知る「抜け道」のような位置付けだった三条通側からのアクセス路を背骨として、全体を再構成しました。新風館時代に広場だったところは、植栽や水景施設を取り入れた小道のような空間に変わりますが、通りから一歩入ったところに新しい空間があるという場づくりの考え方は引き継いでいます。

烏丸通側から見たパサージュの完成予想図のイラスト
烏丸通側から見たパサージュ(完成予想図)
     

小林

街に開くというコンセプトは、建物の2階から7階に入るホテルを運営するエースホテルの考えとも合致します。同社は北米を中心に9軒のホテルを運営していますが、地域の人々を巻き込んだコミュニティづくりに定評があります。ホテルのロビーを地域に開放して、宿泊客でなくともロビーでパソコンを使って仕事をしたり、コーヒーを飲みに来たりというような地域の方々も集う場となっています。夜にはDJを招いて"クラブ風"のイベントを催すこともあるようです。今回の新しいホテルでも、地域コミュニティに貢献するしくみを、京都という街の特性に合わせながら構想していただいています。

──エースホテルがアジア初出店をこの施設に決めた理由はどのようなところにあるのでしょうか。

──エースホテルがアジア初出店をこの施設に決めた理由はどのようなところにあるのでしょうか。

小池

やはり、京都という伝統ある街の歴史ある建物が魅力だったようです。エースホテルはその街の文化や素材を取り入れて、特徴的なホテルをプロデュースすることを得意としています。今回のプロジェクトでも、地元の作家が手がけた工芸品をホテルの内装や備品にぜひ取り入れたいということで、例えば照明器具に使えそうな和紙などに関心を示されていました。

小林

エースホテルは既存の施設や建物を活かす工夫を凝らすことで知られています。地下にボクシングジムがあった建物をホテルにつくり変えた際は客室用の部屋着をジムのローブスタイルにしたり、劇場が併設された建物であればそのまま劇場併設のホテルにしたり。今回のホテルの内装も、アーチ形の窓や梁はそのまま活かすと聞いています。

──そして本施設のデザイン監修には隈研吾建築都市設計事務所を迎えました。
「和の大家」の側面もある隈氏と米国発のホテルとのコラボレーションは、
新風館のテーマだった伝統と革新の融合に通じるものがありますね。

──そして本施設のデザイン監修には隈研吾建築都市設計事務所を迎えました。「和の大家」の側面もある隈氏と米国発のホテルとのコラボレーションは、新風館のテーマだった伝統と革新の融合に通じるものがありますね。

小林

その通りですね。エースホテルも日本文化と西洋文化を融合したホテルにしたいという考えなので、よい議論ができています。ただ、外国の方が考える日本文化は、ハリウッド映画に登場する日本人のように、実像と微妙にずれることもあるので、われわれも積極的に情報提供をし、イメージをすり合わせています。

小池

エースホテルの本プロジェクトへの参加が決まってからは、「ビッグミーティング」と呼ぶ会議を重ねてきました。建物の(意匠に含まれる文化・伝統の)"密度"を高めることが目的です。当社副社長を主宰とし、エースホテルの代表やデザイン担当、設計者である(株)NTTファシリティーズの担当、隈先生とスタッフ、その他デザイン関係者が集まって、3日間ほど泊まり込んで話し合います。現地で建物を見ながら、持ち寄った素材サンプルについて意見を交換する会議を、着工以降だけで3回行っており、竣工までにあと3回ほど開催する予定です。 会議は予定調和なところがなく、満を持して提案したものがあっさり却下されることもあります。日本人同士であれば、なんとなく否定し合わないまま進みそうなところにも、エースホテルから指摘が入るので、妥協のない議論になっています。逆に、先方の希望を調整してもらうこともあります。例えば、ホテル側が日本の著名な作家の工芸品を採用したい意向を持っていたものの、入手可能性に難があるような場合です。そのような時は、提案を単純に却下するのではなく、提案のエッセンスを別の形でかなえることを考えます。

──隈研吾建築都市設計事務所とも活発な意見交換をしてきたのでしょうか。

──隈研吾建築都市設計事務所とも活発な意見交換をしてきたのでしょうか。

小池

有意義な議論ができています。隈先生も事務所の皆さんも非常に柔軟で、実は最初にご提示いただいたデザイン案と今進んでいる案はかなり違っています。われわれからの指摘はごく部分的なものですが、隈事務所は何か一つ指摘を受けた際にその部分だけを修正して済ませることはまずありません。この部分で指摘を受けるのはなぜか、ならば全体にどう見直すといいのか、という考え方で大規模な修正に至ります。この2年半ほどそれを何度も繰り返されていて、驚くとともに感激しています。われわれの先輩が設計した建物に対するリスペクトが根底に流れているのを感じますね。エースホテル共同創設者の故アレックス・コルダーウッドさんと隈先生は旧知の間柄で、「いつか一緒に仕事を」と話していたとも聞いています。

小林

京都市には建築デザインに関する独自のガイドラインがあります(「京の景観ガイドライン」)。これに関しても隈事務所からは、単に該当部分で要件を満たす以上の提案がありました。例えば、道路に面する外壁には軒庇の設置が求められますが、隈事務所の案は庇に準じるものとしてルーバーを採用し、ガイドラインに定められた2階・3階に限らず、さらに上の階にも設けるというものです。外壁の見た目に変化がつくように、ルーバーは3通りの角度で設置します。決められた部分だけ、取ってつけたように対応するのではなく、真に街との調和をめざしているのです。

街との調和をめざした外観の完成予想図
街との調和をめざした外観(完成予想図)
街との調和をめざした外観(完成予想図)

──2020年春の開業予定ですが、商業施設のテナントの状況はいかがですか。

──2020年春の開業予定ですが、商業施設のテナントの状況はいかがですか。

小林

リーシング活動を始めており、順調に進んでいます。旧館の建物の魅力やエースホテルの出店が人気につながっているようです。また飲食や物販といったテナント以外に、情報発信のできる施設の導入を前向きに検討していて、地下に一つ大きな区画を用意しています。

小池

ホテルに属する施設ですでに決まっているところでは、中庭奥の3階屋上部分は外に開かれたルーフトップバーになります。地下鉄駅からエスカレーターで直接アクセスして、バーから中庭などを見下ろして京都の夜を楽しむことができます。

小林

新風館時代もテナントとは常に対話をしてきました。魅力的で活気のある場所にするためにどうすればいいのか、私たちも一緒になって考え、広場で多彩なイベントなども実施してきました。運営サイドとしてテナントとWIN-WINの関係を築くことは、これまで同様、再開発後も重要なテーマになります。エースホテルやテナントと力を合わせて、旅行者にとっても、地域の皆様にとっても魅力的な場所になるように育てていきたいと思います。

※インタビューは、2018年7月上旬に実施しました。